ディスカスの歴史
始まりは1840年、ウィーン自然史博物館の魚類学者ヨハン・ヤコブ・ヘッケル氏が初めて世界にディスカスを発表しました。
これがアマゾン川の支流のネグロ川で採集された、ヘッケル・ディスカスです。
その後、ペレグリンによって新たなディスカスが1904年に記載されました。
これがグリーン・ディスカスです。
ディスカスがアクアリウムの世界に登場したのは、1933年にドイツです。
その後、ディスカスの繁殖も研究され、1935年にアメリカで初めて成功したと言われています。
1950年代後半には、アメリカのジャック・ワットレイ氏や、ドイツのシュミット・フォッケ氏が品種改良に取り組み始めていました。
1960年には、アマゾン川のベレンやマナウスで、アクセルロッド博士によって採集された新たなディスカスを、魚類学者のシュルツ博士が記載しました。
これがブラウン・ディスカスです。
同じ1960年に、アマゾン川の支流であるプルス川とマディラ川で採集された新たなディスカスも、シュルツ博士が記載しました。
これがブルー・ディスカスです。
1980年には、アクセルロッド博士とハンス・ウイリー・シュワルツ氏がアマゾン川の支流であるアバカシス川で新たなヘッケルディスカスを採集し、これを1981年にウォーレン・バーゲス博士がヘッケルディスカスの亜種として記載しました。
これがウイリーシュワルツィ・ディスカスです。
それでは、ディスカスの分類はどうなっているのか、次で見ていきましょう。
原種ディスカスの分類(WILDディスカス)
ワイルドディスカスは、採取地や河川名が流通名(商品名・種類名)に付いていて、豊富で美しい地域バリエーションの存在がディスカスの大きな魅力になっています。
産地は重複しているエリアも多く、実際、原種個体同士の自然交雑個体も多く見られ複雑です。
これもまたワイルドディスカス(原種ディスカス)の魅力の1つと言えますね。
ディスカスの分類は、アクアリウムの世界では古くから2種5亜種とされていましが、今もなお複雑なため論争が続いています。
古典的な分類といわれるものでも、2種4亜種とされていますが、2種とは、ヘッケルディスカス(2種4亜種の分類の場合ウイリーシュワルツィディスカスは、シノニムにより無効)と、その他のディスカス(グリーン、ブルー、ブラウン)に分けられているということです。
4亜種とは、ヘッケルディスカス、グリーンディスカス、ブルーディスカス、ブラウンディスカスのことです。
しかし、近年ではこれらの分類が見直されていて、2種または3種に分ける分類が主流になっています。
2種に分ける場合は2通りあって、1つはヘッケルディスカスと、その他のディスカス(グリーン、ブルー、ブラウン)に分けられます。
もう1つは、それらに遺伝的隔たりがみられるということから、グリーンディスカスと、その他のディスカス(ヘッケル、ブルー、ブラウン)に分けられます。
3種に分ける場合は、ヘッケルディスカス、グリーンディスカス、その他のディスカス(ブルー、ブラウン)に分けます。
ここまでがWILDディスカスのお話ですが、次からは改良品種について見ていきましょう。
ディスカスの改良の歴史
アクアリウムの世界で、固定化された改良品種が初めて登場したのは1960年代後半、トルコ宝石に由来する名がつけられたターコイズディスカスです。
それは、アメリカのジャック・ワットレイ氏が原種ブルーディスカスを元に作出したと言われ、1969年にフロリダのロバーツ養魚場から「ワットレイターコイズディスカス」の名で発表されました。
時を同じく、ドイツではエドワード・シュミット・フォッケ博士が、有名な採集家であるハイコ・ブレハー氏が輸入した個体を元にして品種改良に取り組み始めます。
両氏は、1970年代にはディスカスの交換も行うようになり、アメリカとドイツで美しいターコイズディスカスが作出されるようになりました。
後に、アメリカのワットレイターコイズは第1系統・第3系統と発展し、ドイツのシュミットフォッケ博士の方はレッドターコイズ、そして「ブリランテターキス(ブリリアントターコイズ)」や「コバルトブルー」と呼ばれるドイツターコイズを作出します。
ターコイズディスカスが日本にまとまって輸入されたのは1980年でした。
1980年以降になると、東南アジアからの改良品種が輸入されるようになります。
タイで作出されたレッドロイヤルブルー(RRB)をはじめ、ドイツ系ターコイズ、ワットレイターコイズ(東南アジア産)が輸入されるようになり、空前のディスカスブームの到来です。
香港では、王志華がディスカス特有の暗色横帯(バーチカルバンド)を消失させた「無棟藍」という品種を作出し、同じく香港で(のちに台湾に移設)ローウィン・ヤット・サニー氏&ウ・チン・ユン・ロッキー氏のW.W.F.F.(ワールドワイドフィッシュファーム)が、シュミット・フォッケ博士のディスカスやワイルドディスカスを用いて、後のディスカス界に多大な影響を与える独自の品種をいくつも作出しました。
W.W.F.F.では、キングオブターコイズと言っても過言ではない「WB22ブルーダイヤモンド」が作出され、世界のブリーダーが後追いしてブルーダイヤモンドタイプのディスカスの生産に励んだ時代もありました。
他には、「WR19LSレッドスポッテッド・グリーン・レオパードスキン」や「WW46フレームオブ・ザ・フォレスト」など挙げればキリがない、今やどれも本物にはまずお目にかかれない、ディスカス界の礎を築いたと言えるディスカスファームでしたが、のちにファームはLEO氏に受け継がれ、そのLEO氏は2013年に逝去しています。突然の訃報でした。
1980年代後半になると、香港・台湾・タイ・ペナン島などで大規模な大量生産が行われ、東南アジアを中心とした巨大マーケットへと発展していきます。
1990年以降も東南アジアを中心とし、ピジョンブラッドディスカスを作出したタイ・バンコクのキティ氏、マレーシア・ペナン島のタン・チーロック氏、テオ・ベンチャイ氏、香港のチェン・ワイセン氏、ウェイン氏などが著名なブリーダーとして活躍しました。
ドイツでは、デーゲン氏、シュリングマン氏、ゲーベル氏などが上質の改良品種を作出しました。
また、日本の国内ブリーダーも世界に肩を並べてレベルの高いディスカスを作出する、幾多のブリーダーがいました。
現在では極少数になってしまいましたが、まだ日本の著名ブリーダーもいますし、そのディスカスのレベルは海外からも求められるほどのレベルです。
原種ディスカス(ワイルドディスカス)
ここからは各ワイルドディスカスの特徴をお話します。
ヘッケルディスカス
ネグロ川、アバカキシス川やトロムベタス川などに分布します。
1981年にネグロ川の対岸側にあるアバカキシス川から新たな個体群が発見され、縦列鱗数の違いから新亜種として報告されたのがウイリーシュワルツィですが、現在は「アバカキシス産ヘッケル」や「アバカシヘッケル」などの名前は見かけますが、ウイリーシュワルツィの名前を見かけることはなくなりました。
流通する産地名には、ネグロ産、ヤムンダ産、マディラ産、ノーバオリンダ産やマリマリ産、ウアツマ産など複数ありますが、純粋なヘッケルディスカスはネグロ産の個体だけというのが、愛好家の中での一般的な認識です。
ネグロ川はアマゾン川の支流の1つですが、フミン酸やフルボ酸などの植物由来の腐食酸によって黒褐色をした河川なのが特徴です。
いわゆるブラックウォーターなのですが、水質的にpH4~5程度と低く、硬度1.5、導電率10~20マイクロジーメンスという軟水で特殊です。
体色は、灰褐色~茶褐色と色彩的には乏しく、体全体にストレート様の青い縦縞模様(魚は目を上、尾を下として見るため、人から見た横縞は正確には縦縞といいます)が入ります。
頭部から乗る青色の面積が多い個体は、「ブルーフェイスヘッケル」などと呼ばれます。
最大の特徴はヘッケルバンド(ヘビーセンターバーなど)と呼ばれる、目から数えて第5番目の強調された暗色横帯にあります。
ヘッケルバンドにも個体差がありますが、ヘッケルクロスといわれる交雑種と思われる個体にもヘビーセンターバーが見られます。
グリーンディスカス
グリーンディスカスは、アマゾン川上流域の支流に生息しています。
ペルーからブラジルにかけて分布していて、ワイルドディスカスの中で最も広範囲に及び、かつ流通量の多い品種です。
分布は、テフェ湖、ジュルア川、ジュタイ川、ジャプラ川、プトゥマヨ川、ナナイ川など。
体色は黄色い基調色で、橙色っぽい基調色を持った個体もおり、頭部や体側、尻ビレ基底部に淡いグリーンの色合いを帯びています。
個体によってはレッドスポットが入るのも特徴で、そのレッドスポットも多い少ないの個体差があり、背ビレ尻ビレに入るブラックアーチも明瞭です。
ぺルビアングリーンと呼ばれるナナイ産のグリーンディスカスなどは、アマゾン上流域にいる純粋なグリーンディスカスとしても人気ですし、テフェエリアのグリーンディスカスは美しい個体が多いことからも人気です。
グリーンディスカスの中でも、「ロイヤルグリーン」と呼ばれるものが1番人気ですが、販売されている個体を見ると「これもロイヤルグリーン?」というのを見かけることも多いです。
これについては、選別する人が思っている基準の違いもあるかと思いますし、単に本来の色模様が薄れたり消えたりしている場合もあります。
ロイヤルグリーンとしての基準は、一般的にはグリーン色の表面積が広く、レッドスポットも多めのもの、というのでよろしいかと思いますが、雌個体はあまりグリーン色が表現されないこともあります。
分布域の下流の方のグリーンディスカスには、ブルーディスカスとの交雑個体のようなタイプも見られ、ブルーグリーンなどと呼ばれたりもします。
グリーンディスカスは、様々な改良品種の種親に使われているディスカスです。
ブルーディスカス
ブルーディスカスはアマゾン川の中流域に生息していますが、支流のネグロ川と本流のアマゾン川の合流点周辺に生息するディスカスには、ヘッケルディスカスとの交雑個体と思われるものも多く見られます。
中流域の生息している関係上、他種と入り混じるエリアも広く、原種ディスカスの中では最も多様な色彩パターンがあると言われています。
基調色は黄色から赤みのある褐色で、頭部や背ビレ、尻ビレ周辺にブルーのストライプが入ります。
ブルーラインのパターンには個体差が大きくありますが、全身がブルーラインで覆われた個体は「ロイヤルブルー」と呼ばれ、希少価値が高く、人気があります。
産地としては、マナカプル産やヤムンダ産が有名ですが、他にはマディラ産、カヌマ産、マリマリ産、アバカシス産などがあります。
最初の方で生息域の関係上、ヘッケルディスカスとの交雑個体も見られると説明しましたが、その他にも下流域で見られるようなソリッド系、ソリッドレッド系のディスカスも見られ、様々なタイプのディスカスが混在します。
ブラウンディスカス・アレンカーディスカス
ブラウンディスカスは、マナウスからベレンに至るアマゾン川中流~下流に広く分布しています。
体色は黄褐色~褐色で、体にホリゾンタルラインはほとんど入らず、地味な模様をしています。
原種ディスカスの中では古くから親しまれてきた種ですが、いつの頃からか昔のようには輸入されなくなりました。
原種の中では元も繁殖が容易で、かつては香港やタイ、マレーシアなどで盛んに養殖がおこなわれました。
アレンカー地方は、ブルーディスカスやブラウンディスカス、別タイプのレッドディスカスなどが入り混じるエリアで、様々な地域変異個体がいると考えられていますが、ブルーディスカスとブラウンディスカスの交雑個体の可能性もあります。
アマゾン川をそのまま地図で見た時に、北岸エリア(北岸アレンカー)や南岸エリア(南岸アレンカー)、西岸エリア(西岸アレンカー)にもエリアごとにそれぞれ特有の個体群が生息します。
体型の違い、基調色の違い、赤色の質の違い、模様の違いなど、個体群による違いがあるのです。
改良品種(改良ディスカス)
現在、改良ディスカスには様々なものがいて、とても写真など使って紹介しきれません。
これはブリーダーが各々で付けた品種名という意味ではなく、タイプ別に紹介するとしても紹介しきれないという意味です。
ブリーダーが勝手につけたオリジナル名で紹介すると、なおさら紹介しきれませんし、見た目が同じものでも品種名が違っているので、知らない人が見ると混乱してしまう原因になります。
逆に、同じグループの品種でも、見た目に明確な違いがあるオリジナリティのある品種がいるのも確かではあります。
改良品種では、ブラウンディスカス、レッドロイヤルブルーディスカス、レッドターコイズディスカス、ブリリアントターコイズディスカス、コバルトターコイズディスカス、レッドスポットグリーンディスカス、ブルーダイヤモンドディスカス、オーシャングリーンディスカス、ピジョンブラッドディスカス、スネークスキンディスカス、ヘッケルクロスディスカス、ゴーストディスカス、ゴールデンディスカス、アルビノディスカス、アレンカーディスカスなど、とても紹介しきれません。
しかもこれらのディスカスが入り乱れて交配され、その品種は多岐にわたります。
例えば、アルビノとブルーダイヤモンドを交配させてアルビノブルーダイヤモンドが作出されたり、ピジョンブラッドとスネークスキンを交配させてピジョンスネークが作出されたり、といった具合です。
ここに、ブリーダーが各々で品種名をつけてしまったりするので、初心者のかたは訳が分からなくなるのです。
例えば、アルビノとオーシャングリーンを交配させれば、アルビノオーシャングリーンとなるのですが、それをルビーインプラチナと名付けてしまったりという具合です。
このような現象は、必ずといっていいほど他の魚種も通る道ですが、少し前では改良シュリンプ、現在は改良メダカで起きていますね。
こればかりは、色々なものを見て学習して覚えるしかありません。
品種の作出過程やルーツを知ると全体像が見えてきますし、今後の品種作出や品種の立て直し・作り直しに活かすこともできるので、ルーツを知るということはとても大切なことですね。
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